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”山の牧場”とかいう現代怪談の最高傑作
最近、音楽を作るにしろやはり国民性というか民族性というか、どうせなら日本人として日本人にしか出せないようなサウンドをどうにか作り出せないかとよく考えている。そんなときにまず考えなければならないのはもちろん、”日本らしさ”とは何か、ということなのだが、色々考えた挙句ホラーや怪談といった類のものにそれを見出した。
谷崎潤一郎の”陰影礼賛”にもあるように、日本には独特の”湿り気”や光の届かない”暗がり”がある。本来は別に恐怖の対象として見るようなものでも無いのかもしれないが、さまざまな表現作品を見るにホラー作品や怪談に一番それが如実に表されているのではないか、というとりあえずの結論に至ったのであるからして。
なので、いつも日本に帰るたびに何冊か小説を購入してニュージーランドに持って帰ってきて読む、というルーティンがあるのだが、ここ数年はSF小説がメインだったのが、前々回の帰国時ぐらいからホラーがメインとなった。
最近読んだものだと
- ”厭魅の如き憑くもの”(三津田信三著)
- ”ぼっけえ、きょおてえ”(岩井志麻子著)
- ”祝山”(加門七海著)
などになるが、このなかで一番怖いと感じたのはやはり”厭魅の如き憑くもの”だと思う。探偵推理もの要素も入っていて、一度読んだだけでは恐らく100%楽しむのは無理なのだけど、登場人物が怪異としか思えない現象に出くわすときの、姿が見えそうで見えない化け物の描写などには震えが来るものがあった。
しかし、だ。どれを読んでもなにか物足りない感じがしてしまう。
確かに怖いんだけども、自分としては”ぼっけえ、きょうてえ”なんか特にそうだが、恐怖の原因というか根本が具体的に目に見えた時点で興醒めしてしまうのだ(この作品はそういう怖さというより、人間の存在としての地獄に劣らないどん底の描写がエグい、という意味ではかなり怖かったが)。そういう意味でも”厭魅の如き憑くもの”はちゃんと解明されずに終わる部分もあって惜しいものはあったのだが、やはり心の底から恐怖や不安を煽り出すには物足りない。
なぜか。恐らく、中学生のときに読んだ”新耳袋”が今だに根強く記憶と印象に残っているからに違いない。
元々オカルトに対してエンターテイメント性を無意識に感じ、並々ならぬ興味は小学生ぐらいのときから抱いていたのだが、中学に入ってから地元の図書館でなんとなく借りて読んだ新耳袋にどハマりしたわけである。前置きでも書いてあったと思うが、百物語は一晩で百話全部すると必ず怪異に遭う、ということを期待して一冊を一晩で読んでみたりもしたが、特にこれといった現象は今のところ遭遇していない。九十九話しか収録されていないからだろうか。
で、新耳袋の何がすごいかっていうと、先ほども述べた通り”光の届かない暗がり”感がすごいわけだ。特に本稿のタイトルにも書いた”山の牧場”などは、これが実話か創作かにかかわらず現代怪談の最高傑作であると未だに思っている。超えてくる話は無いね。2ちゃんの絶対知り合いの知り合いに霊能者がいるような話は到底敵わないよ。”ヒッチハイク”だけはいい線行ってたけど。
新耳袋は基本的なスタイルとして、著者の二人がフィールドワークのごとく駆け回り怪異体験者などから集めた怪談・奇談を集めたものだが、”山の牧場”に関しては著者である中山市朗氏が体験した話となっている。登場するギミックとしては、”山の中にポツンと立っている牧場らしきものの跡地”、”牧場の体をしているのに牛などを飼った形跡が一切見当たらない”、”乗用車一台が通れるのがやっとの道しか通じていないのに、どうやって運んできたのかわからない重機がある”、”建物は二階建てなのに二階へ上がる階段が無い”、”事務所だと思われるプレハブの中にある、入り口の扉より大きな岩”、”お札だらけの二階の和室”など、理解するのに苦しむ現象・状態のオンパレードなわけである。そして、そのうちの何一つ原因が解明されることは、無い。だからこそ不安を煽られる。
人類は恐らく古来から、理解の範疇を超えるものを”超自然的”な現象として神や悪魔の仕業などに仕立て上げてきた。そのうちの大部分は恐らく現代の科学によって解明されたわけで、神の仕業などでもなんでもなくなったわけだが、”山の牧場”に関して言えば今現在の科学力や人類の知能をもってしてもまったくもって理解不能なわけである。要するに、超自然的存在または人類以外の存在を自ずから感じさせるような話の作りになっている。
そうしたわけわからん現象が細かに描写され、筆者と共に読者はより一層不安の渦へと巻き込まれていくのである。しかしながら一応のオチのようなものもあるのだが、やはり到底それだけでは説明できない謎がいくつも残る。で、ようやっと最初の話に戻るが、このようなヌメッと頭の片隅から10年以上も離れない感覚が、例の”湿り気”や”暗がり”に通じるのではないかと思う。
音楽にどう取り入れるかは追々考えるとして、とにかくこの後味の悪さというか拭いきれない不安が残る感じはぜひ新耳袋を実際に手に取って読んで体験していただきたい。
ということで、当サイトはメインはフリーBGM配布用サイトですが、ぶっちゃけそれだけじゃ食ってけないので読書感想文も今後ぽつりぽつりと上げていこうと思います。かしこ。
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